Tuesday 1 April 2008

コーカサス誘拐事件


ソ連映画の傑作を日本語で紹介します。傑作といってもタルコフスキーや初期のソクーロフのような本当の傑作ではなく、あまり海外流出してない大衆映画を対象とします。

кавкаская пленницаという映画、英語でのタイトルはkidnapping caucassian styleとなっています。海外セールスはアメリカでのビデオセールスのみのようです。
67年モスフィルムの制作で、監督はイワンワシリビッチと同様、レオニードガイダイという人です。

民俗学の調査のためにコーカサス地方を訪れたシュリック(大学院生?)は、綺麗な女子と恋に落ちる。しかしその女子は、彼女の叔父によって地元のギャング組織に身売りされていた。ギャングの手先が女子を捕まえようとするものの何度も失敗するため、困った叔父は女子とデートしているシュリックに近づき、「コーカサス地方の伝統では、自分の好きな女子を誘拐させるものだ」と言い、それを鵜呑みにしたシュリックは誘拐の手助けをする。というアホな内容です。

かなり面白いです。ロシア人の間でも大人気の映画らしいです。コーカサス地方とは、ロシアの西側、黒海とカスピ海の間でイランやトルコと国境を接している地域です。日本人にとってはコーカサス山脈やコーカサスヨーグルトで馴染みがあり、力士の黒海や露鵬もこの地域の出身です。国でいうとグルジアやチェチェン、ダゲスタン、アルメニア、アゼルバイジャンなどの辺りです。なので現在のロシアとは住んでいる人種が全く違い、宗教もイスラム教徒が中心となっています。ソ連時代にはコーカサス地方として一括りに考えられていたようで、同じ国なのに殆どロシア人しかいないここカムチャツカとは住んでいる人種が全然違うというのはちょっと他の国の人間には想像し難い状況かもしれません。また上記の国名を見てもわかる通り、ソ連崩壊後は民族間/対露紛争の絶えない地域でもあります。なので現在ここカムチャツカにおいては多数の人間がこの地域を嫌っている印象を受けます。しかしこの映画を見てもわかるのですが、ソ連時代は比較的普通にロシア人とこの地方の人間が交流していたように思えます。何となくの印象ですが、年配の人達はあまりロシア人以外の人種に対して違和感を感じていない気がします。ソ連時代は巧く共存できていたという事かもしれません。

この映画もその例で、同じ国の中のコーカサス地方の習慣を冗談として扱うと同時に、この地方の美しい部分も表現しています。60年代ソビエトの平和な雰囲気が凄く伝わってくる上質なコメディ映画です。ブレジネフ書記長時代のソ連は、他の国には冷徹な社会主義国家という印象しかなく、丁度それは現在日本人が朝鮮民主主義人民共和国に対して抱いている印象と同じようなものだと思いますが、本当にそのような状況であればこんなに面白い映画はできなかっただろうと思います。作品の検閲は相当に厳しかったと聞きますが、その限られた中での表現が作家の想像力を奪うのではなく逆に大きくしている印象も受けます。

それにしてもこのレオニード・ガイダイという監督はいいです。新しく好きになった監督です。この人の映画にいつもシュリックという名前で主演しているアレクサンドル・デミヤネンコという人も間抜けな感じで良い。ゴダール先生とジャンピエール・レオーのコンビに匹敵するくらい気に入っています。

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